地域医療は住民にとって最大の関心事といってもよい。同医療圏では全域で医療を支える市民団体の活動が活発だ。草分け的存在である掛川市の「NPO法人f.a.n.地域医療を育む会」発足の経緯と活動について、会長の武田和子氏、理事の二村千恵子氏、監事の村松篤氏にインタビューを行った。
市民目線での活動を推進
まずは活動のきっかけについてお聞かせください。
2005年頃から掛川市立総合病院の医師不足が顕著になりました。件数は多くないものの「小児救急や心疾患等での緊急受け入れが困難となり病院で診てもらえないかもしれない」という声が拡がり、市民が同病院を不安視するようになったのです。そうした中、市は病院機能の確保のために、「病院のあり方に関する検討会」を設置し、後に全国初となる自治体病院同士の統合に繋がる取り組みが始まりました。市民代表として、検討委員会に参加したことが地域医療に係わるきっかけでした。
そのような中、地域医療に疑問や関心を高めていた元患者、子育て中の主婦と出会う機会があり、地域医療に目を向け始めた行政の協力のもと3名で勉強会を始め、「市民で医療を支える仕組みをつくること」で意見が一致しました。ちょうどこの頃、地域では、病院の機能分化や医師の確保といった医療課題の解決に向けた地域医療再生計画が始まり、行政職員の見識と熱意も後押ししてくれました。
市民団体の先例を調べると千葉県東金市をはじめ各地で市民活動が活発化していることを知り、早速各機関誌を取り寄せました。地域により文化や市民の特性が異なります。当市ではどうすれば市民の共感が得られるのか、思い当たった理念が「報徳」です。当市は明治維新前後に二宮尊徳が唱えた報徳思想を全国に広げた運動の中心地であり、「大日本報徳社」が設置された歴史があります。助け合いや思いやりの精神が根付いていると以前から思っていました。
会長は以前、医療現場に携わっていたのですね。
元看護師であると同時に、看護学校で基礎教育に携わっておりました。医療現場にいた頃は、「これだけ働いているのだから、地域住民は安心しているだろう」と思っていたのですが、病院を離れてみると違いました。「待合時間が長い」とか「必要と思う医療を提供してもらえない」等、「いざ受診する時はこんなに大変」という生の声が多かったのです。立派な病院に勤めていたと自負する私にとってはショッキングでした。「素晴らしい医療を提供していたのに、このギャップは何なのだろうか?」「市民一人ひとりに合った医療を提供していたのだろうか?」と。病院と市民の橋渡しをすれば、満足度を上げることができるのではと考えたのも当会発足の理由です。
主な活動内容についてお聞かせください。
2009年の発足以来、地域医療を育むために「今できること」から着手しました。事業の柱が「適切な受診行動がとれるための情報発信」「市民の健康や医療への関心を高める講座」「医療者がやりがい感を持ちその力を十分に発揮できる環境づくり」です。発足から11年が経過し、現在は正会員と賛助会員合わせて300人程度の規模になっています。出前講座の件数も年々増え、昨年は105件3747名の方々に実施いたしました。会員もやりがいを持ち活動してくれています。
「子どもの急病対応ガイドブック」は、無駄な受診を減らし、医療者が本来の医療に専念できる支援ツールとして企画しました。中東遠総合医療センターの10の診療科医師監修のもと、医師会や消防署の救急隊にも協力いただいています。保護者200人を対象に「わかりやすさ」へのアンケートを取った結果、チャート式の構成にしました。2012年に創刊したところ大好評で、改定を重ねながら2万冊以上発行しています。最初の3年間は市の協働事業の予算を使い、その後は企業等の協賛金で賄っています。
2015年からは毎年6月に「高校生体験講座」を実施しています。目的は医師や医療職不足の解消です。医療の現場を知る機会が少ないことも理由の一つと考えたからです。同様の講座は県の訪問看護ステーションでも行っていますが、私たちの講座はあくまでも市民目線です。病院からは快諾いただき、いろいろな部門から直接指導いただいています。進路選択の際には、毎回10職種以上の医師など医療スタッフが親身に相談に乗ってくれています。今迄に受講生の一人が看護師として中東遠総合医療センターに就職しています。
また、受付横の壁面を借りて、医療者への感謝を表す「ありがとうメッセージボード」を設置しています。今までに450通程を掲示しました。今年は集大成としてメッセージ集を制作する予定です。
他のNPOとの協働についてはいかがでしょうか?
県下では、掛川市のほか袋井市、島田市、森町での取組みが最初でした。他の地域には情報提供とともに訪問し、会の発足と連携を訴えました。県西部は増えましたが、東部はまだまだの現状です。年に2回、地域医療支援ネットワーク協議会(県内11団体と浜松医科大学で構成)主催で全団体が当市に集まり、県の政策説明や事例報告が行われています。全国には250程のNPOや団体があります。年に一度、自治医科大学の地域医療センター主催によるシンポジウムが、主に東京で開催されています。
最後にNPOや団体等で活動する方々へのメッセージをお願いします。
超高齢社会にあたり、自分自身が生涯学ぶ姿勢を持ち続けることが大事です。そのためには健康寿命を長くしなければなりません。健康の秘訣は生きがいです。自分が興味のある活動に顔を出して、その中で何か学ぼうという積極的な姿勢を持ってください。きっと楽しさや仲間がいることを感じるはずです。自分自身、11年間の活動を通して健康を維持し、自己成長できたと実感しています。まずは他人や社会のために動くことです。それが自分のためになるのですから。