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自治体病院の統合と機能分化➌ ~磐田市立総合病院~

 中東遠2次医療圏の西部では、磐田市立総合病院が基幹病院として医療機能の分化や連携を進め、地域完結型医療を推進している。同院の特長と役割について、病院事業管理者兼病院長の鈴木昌八氏と経営改革担当理事の田邉紀幸氏に取材した。

地域のマグネットホスピタル

鈴木昌八氏(病院事業管理者兼院長)と田邉紀幸氏(経営改革担当理事)
鈴木昌八氏(病院事業管理者兼院長)と田邉紀幸氏(経営改革担当理事)

  鈴木氏によると、同院は「医療の原点は思いやり」の理念のもと、人材の確保と医療機器や設備の充実を図りながら、地域連携を推進してきた。結果、多くの患者から選ばれると同時に、医師や看護師をはじめ職員をひきつける魅力的な病院を意味する「マグネットホスピタル」の使命を果たしている。

同医療圏を支える高度医療の提供では、救命救急センターをはじめ、地域周産期母子医療センター、地域がん診療連携拠点病院、地域医療支援病院等に指定。特に同医療圏唯一の地域周産期母子医療センターは、リスクの高い妊産婦や新生児に24時間365日体制で医療を提供している。また、中東遠医療圏唯一の地域がん診療連携拠点病院としては、肺がんや大腸がん等の5大がんをはじめ、さまざまながんに対して、手術や内視鏡的切除、化学療法、放射線治療の中から適切な治療法を提供。治療の難しいとされる肝胆膵領域がんに関しては、日本肝胆膵外科学会の定める高難度肝胆膵外科手術を多く手掛けており、高度技能修練施設Aに認定されている。一方、地域医療機関との連携を図る目的で指定された地域医療支援病院としては、かかりつけ医や回復期リハビリテーション施設との間で2018年度には紹介率78・7%、逆紹介率83・9%を達成した。

地域周産期母子医療センター
地域周産期母子医療センター

職員の能力とやる気を引き出す

 職員から見た「マグネットホスピタル」はどうか。「当院では、自分の所属部署以外の仕事にも取り組むことが可能です」と鈴木氏。例えば、臨床検査技師が経営に携わりたい場合、午前の業務終了後に経営企画課の仕事にもチャレンジできる。フェイスブックの発信や広報誌『けやき』の発行には、さまざまな部署の若手職員が携わっている。「自薦他薦、若手中心でスタッフを募り、病院の取組みや医療情報、職員の姿を生き生きと伝えるようにしています。フェイスブックでは、市民からはたくさんの『いいね!』の反応があります。」

5S 運動で間違えないよう整理された救急カートの中身
5S 運動で間違えないよう整理された救急カートの中身

 2017年度から設けた職員表彰制度では、「医療の原点は思いやり」を現場で実践している職員たちを表彰。2019年度の「ベストスタッフ賞」には病院広報に取組んだ職員が、「特別賞」には安全な手術体制に貢献した職員が選ばれた。

 

5S活動を通じた病院経営への参画も定着している。5Sとは「整理・整頓・清掃・清潔・しつけ」の5つの頭文字をとったもの。愛着を深め、作業効率を上げ、不良在庫も抑えられるため、組織の経済効率を高める効果があるとされる。民間企業の手法だが、病院では同院が2007年にいち早く取り入れた。ここでも年に1回、各部署から5S活動の成果を披露し、優秀な取り組みを表彰している。最近では、5Sの磐田として全国的に知られるようになっている。

経営改善では、病院に経営企画部門を取り入れたパイオニアとしても知られる。2005年に民間企業から採用された田邉氏は当時を振り返る。病院長直轄の経営機能を担う部署として経営企画室が設置され、病院の使命、目指すべき方向性に向けての経営計画、実施計画の策定と実行の推進など多岐にわたる役割が与えられた。中でも数字の確保に向けた取り組みが最優先課題として位置づけられた。当時、データはあったものの『見える化』は進んでおらず、経営指標が一部でしか共有されていなかったためだ。田邊氏はあらゆる情報や各種データを収集し、経営に役立つ有用な情報を加工して経営者へ提供した。

 

「経営企画課となった現在も、経営計画の策定や進捗管理といった基本業務は変わりませんが、経営判断に役立つ各種院内データの分析がますます重視されるようになりました。データを『見える化』するツールも揃っており、職員の業務改善に活用されています。」経営改善では、5月に清掃業等の委託業者を含むすべての部署が定性だけでなく定量目標を設定し、全職員の前で発表する。そして年度末には目標に対する成果発表会を実施。「『がんばった』ことと同時に数値で評価されるため、職員は数値を頭に入れながら職務に励むようになっています。」

機能分化と連携

 2008年には公立森町病院との間で県内初の自治体病院間協定である「医療連携及び協力に関する協定」を締結した。以来、磐田市立総合病院が高度急性期と急性期医療を中心に、公立森町病院が急性期医療に携わりながら回復期から在宅医療までをそれぞれ機能分担することとなった。臨床研修指定病院である同院の研修医が公立森町病院の在宅医療を経験する仕組みも若手医師の成長に有効に機能している。

 

取組みの一つに「つながる会」がある。目的は磐田市と森町の医療従事者による「顔の見える関係づくり」を通して「管理上の課題を共有すること」や「地域完結型医療提供体制構築に寄与すること」で、病院・訪問看護ステーションと病院薬剤師がそれぞれ「つながる会」を発足した。視察や研修、グループワークを重ね、2016年には行政の保健師、病院・肪問看護の看護師の協働で、「高齢者の誤嚥性肺炎の重症化を防ぎ、入院せずに地域で対処する」ための普及啓発活動を住民や介護施設に行っている。6年目に入った現在、「顔の見える関係づくり」は定着し、地域の課題解決に向けた取組みを活発化している。

 

中東遠総合医療センターとは一部の診療科で医師数の違いがあるものの、診療科自体に大きな違いはない。「当医療圏域の地域特性(人口約46万人、面積約780㎢)を踏まえると、二つの基幹病院は不可欠です」と鈴木氏。

 

二つの基幹病院を中心に地域連携がうまく進んだことについて、鈴木氏は「5市1町の病院が総合病院として機能しながらも医師不足で十分な医療を提供できず、得意・不得意な部分をお互いに補うかたちで連携が進んでいたこと」を指摘する。「菊川市立総合病院、市立御前崎総合病院、公立森町病院は急性期病棟を縮小し、回復期リハビリテーション病棟を整備することで後方支援病院に機能分化しました。誰かが指示したというのではなく、それぞれの病院が無理をせずに医療資源を最大活用しながら地域医療の持続性を確保する判断だったのでしょう。」さらに、病院長、事務部長同士の「顔が見える関係」も付け加える。「当時の5市1町の病院長は名古屋大学か浜松医科大学出身のどちらかでした。また、専門も外科系であり、気心が通じる面があったのではないでしょうか。」

磐田市立総合病院(正面) 病床数 500 床(一般病床 498 床、感染症病床 2 床)、診療科目 32 科
磐田市立総合病院(正面) 病床数 500 床(一般病床 498 床、感染症病床 2 床)、診療科目 32 科
2 つの基幹病院を中心とした機能連携(中東遠総合医療センターの資料をもとに編纂)
2 つの基幹病院を中心とした機能連携(中東遠総合医療センターの資料をもとに編纂)

地域医療構想について

 同医療圏域は、機能分化と連携を果たした草分けだ。ところが地域医療構想では、菊川市立総合病院、市立御前崎総合病院、公立森町病院が「再検証」を要請する対象病院とされてしまう。これについて鈴木氏は、「厚生労働省の急性期指標は病院単位であり、地域での機能分化による連携の実体が反映されにくい」と指摘する。「当医療圏域では各病院が、地域医療医を支える使命を果たしており、何ら統合等の必要はないと認識しています。」

 

磐田市立総合病院は地域完結型医療を推進するにあたり、住民への啓発活動にも取組む。国の医療政策の変革が進む一方で、住民への情報周知が十分でないことに懸念を抱いたからだ。地域医療構想や地域完結型医療に関する話題に加え、医師不足や医師の働き方改革等、地域医療への影響が大きい内容を盛り込み、地区の交流センターで病院長自らがタウンミーティングを開催している。地域住民と直に意見交換できる場として好評という。

交流センターでのタウンミーティング
交流センターでのタウンミーティング