公立置賜南陽病院は公立置賜総合病院のサテライト医療施設として位置付けられた病院で、1968年に山形県南陽市に鉄筋コンクリート造4 階建て、延床面積約11,000 ㎡規模で建設された病院だ。公立置賜総合病院で急性期治療を終えた患者の受け入れとともに、外来治療や人工透析を実施するなど、地域医療の中核を担ってきた。
今回の改築計画は、建設から45 年以上が経過した既存病院の老朽化や、団塊の世代が後期高齢者になる将来の医療環境を見据えて、現敷地内の北側に改築を進める事業である。
設計について 株式会社佐藤総合計画
はじめに
公立置賜南陽病院は公立置賜総合病院のサテライト医療施設として位置付けられた病院で、1968年に山形県南陽市に鉄筋コンクリート造4 階建て、延床面積約11,000 ㎡規模で建設された病院です。公立置賜総合病院で急性期治療を終えた患者さんの受け入れとともに、外来治療や人工透析を実施するなど、地域医療の中核を担ってきました。
今回の改築計画は、建設から45 年以上が経過した既存病院の老朽化や、団塊の世代が後期高齢者になる将来の医療環境を見据えて、現敷地内の北側に改築を進める事業です。
新病院の規模は鉄筋コンクリート造2 階建て延床面積約3,700 ㎡規模で、病床数は50 床、診療科は内科、外科、泌尿器科、整形外科、耳鼻咽喉科、眼科、脳神経外科、リハビリテーション科、総合診療科となっています。
設計は、2017(平成29)年3 月1 日に公告された公募型プロポーザル方式により、当社東北事務所を選定いただき、スタートしました。
基本設計は2017 年3 月30 日~ 9 月30 日完了、実施設計は2017 年12 月15 日~ 2018(平成30)年5 月31 日完了予定となっています。
工事は、新病院建設が2018 年6 月~ 2019(平成31)年5 月予定で、6 月に新病院開院の予定です。その後、既存病院の解体、屋外整備を進め、12 月にグランドオープンを予定しています(図1)。
基本設計完了後、実施設計を進めるにあたり、設計面では、利用者の視点に立った良質な医療施設の整備、施工面では建設費の適正なコスト管理と建物の高い品質確保を目的とし、早期に施工者を参画させるECI 方式が採用されました。この方式により、設計者と施工者が相互の技術力を結集し緊密な連携を図りながら、より精度の高い実施設計がスタートしているところです。
なお、基本設計完了~実施設計着手までの約2カ月半は、ECI 方式に基づく施工者の第一優先交渉権者の選定協議に費やしました。
ECI 方式を前提とした設計スケジュール対応
当社東北事務所においては、医療施設では2 件目のECI 方式採用案件となりました。基本設計期間は6 カ月となっていましたが、実質4カ月でECI 方式公告図書の取りまとめを進め、残り2カ月は施工者選定に関する支援業務となります。これまでの経験を踏まえ、4カ月という短期間で、いかに精度の高い見積もりのできる基本設計図書を取りまとめられるかが大きな課題となりました。なお、具体的に求められた図書としては、「数量を明確化した設計図書の作成」「各室諸元表の作成」「設備プロット図の作成」などが挙げられます。
私たちはこれら課題に対し、病院側との打ち合わせ期間を3 カ月と設定(残り1 カ月はECI 公告図書の作成期間)し、計18 回の打ち合わせを行い病院要望の取りまとめを進めました。
対話型プロセスと設計の見える化
短期間で確実に病院の意向をかたちにし、合意形成を図る手法として、通常実施する「チェックシート」による与条件整理やゾーニング図による全体像の共有化、模型作成による空間イメージの把握のほか、BIM *の活用を図りました。これにより、打ち合わせ結果を3次元情報として視覚的にアウトプットすることが可能となり、病院スタッフが比較的容易に検討結果を早期に確認・決定でるプロセスが構築できました(図2 〜4)。
またBIM 活用のもう1 つの成果として、基本設計概算に関わる数量情報の把握が挙げられます。設計作業と概算作業の連携が、短期間での各種決定と取りまとめにつながります。
現地建替えへの配慮
既存敷地の中で病院運営を図りながら、新病院建設と既存病院解体、外構整備を進める必要があるため、工事の各段階において、安全なアプローチの確保と大きな切り回しや仮設が生じない計画にするよう努めました。
工事エリアを明確にして安全区画を設けたり、一般・工事車両動線の分離を図ることで、利用者に安心・安全な計画としました。さらに、基本設計工程表の中に病院様と共有する課題を明確化し、それを課題管理表として各打ち合わせ時に提示することで、スケジュール管理と各種決定に向けたプロセス共有化の徹底を図りました(図5)。
設計概要
本施設は置賜地域のサテライト病院として、地域の診療所や老人福祉施設、居宅介護支援事業所など、地域包括ケアを担う重要な施設となるため、安心・安全、そして末長く使われ、地域住民に親しまれる施設づくりをポイントに挙げ、計画を進めました。
以下が本計画の3 つの骨子となります。
[3 つの骨子]
1.少人数のスタッフで運用できる効率的なゾーニングと動線の配慮
2.患者、家族、地域住民に開かれた地域の場づくりへの配慮
3.安心・安全で使いやすい、高齢者に配慮した施設づくり
(1)配置計画
地域の豊かな環境が自然に感じられ、周辺にも患者さんにも優しい「見守りの療養環境」のある病院づくりを目指しました。また地域の街並みへの調和から、高さ10 m以下のコンパクトな建物形状とし、周辺への圧迫感を和らげるとともに、周辺住宅や畑への日照に影響のない計画としました。正面道路の既存緑地はそのまま残すことで、病院の歴史を継承する場になることのほか、新病院正面玄関に対する防風林機能を付加できる計画としました(図6)。
( 2 )外観計画
水平庇や小壁による門構えと列柱をモチーフに、主アプローチへの顔づくりと安定感の感じられる計画としました。シンプルな構成ながら、地域住民が親しみを感じられる外観としました。
( 3 )平面計画(図7 )
1 階はスタッフエリアを北側、患者さんエリアを南側に配置する明快なゾーニングとし、また北側のスタッフストリート、南側のホスピタルストリートの2 つの主動線を軸に明快に動線分離をしました。
主出入口は南側中央に設け、正面エレベータを挟み、「事務」と「外来・検査」を配置。縁側のような陽だまり空間となるホスピタルストリート沿いに外来・検査・放射線部門を機能的に計画し、高齢者にもわかりやすい構成としました。
北側はスタッフや事務職員が機能的かつ効率的に移動ができるスタッフストリートを軸に各諸室を配置し、また患者待合を介さずに外来・検査部門にアプローチできる計画としました。
2 階は50 床の病棟とリハビリテーション部門、厨房、多目的会議室を配置しました。病棟はケアしやすい新たな見守りケア病棟として、看護
動線の短縮化を目指し、スタッフステーションを中心に回遊型廊下とし、スタッフが効率的にケアでき、またカウンターは病室・食堂、出入口に面することで、最短動線でのケアや出入り管理がしやすい計画としました。
隣接するリハビリテーション部門に対しては、入院患者さんへのリハビリ訓練がしやすい諸室関係を構築したほか、回遊型廊下を利用した歩行訓練利用などにも機能できる計画としました。
なお、昇降機は2 基とし、患者利用とスタッフ・サービス利用の使い分けを図っています。
( 4 )多雪地域である南陽市の気候特性への配慮
落雪、除雪への万全な雪対策として、屋根は陸屋根無落雪方式とし、また雪庇の出来やすい方角には笠木の融雪ヒーター設置の他、建物外周に小庇を設け、安全対策を施しました。
車止めのない駐車場や除雪のしやすい外構計画、出入口廻りへの無散水融雪や風除室を含めた1 階部分への床暖房の採用など、寒冷積雪地へのユニバーサルデザインを徹底しました。
( 5 )南陽らしさのある内装計画
地域ブランドでもある杉材を利用し、ホスピタルモールの壁・天井や病室腰壁の内装木質化を進め、温もりと優しさ、癒しのある空間を計画します。
( 6 )高齢者に優しい細部計画
高齢者は免疫力が低下しているため、感染防止対策が重要です。また動きの不自由な方も多いため、十分なスペースの確保も大切です。そのため、病室は高齢者ケアがしやすい車いす対応の計画とし、1.5 m以上の十分なベッド間隔でゆとりを確保しました。また病室から近くケアしやすい位置に車いすが利用できるトイレを配置しました。各病室には手洗いやマスク・手袋の個人防護具収納を設置し、感染防止対策を施しました。
これらのほか、病棟廊下幅は広く確保し、患者さん利用の扉には緊急解錠装置を設置するなど、優しさと安全対策の両立する配慮を施しました。
2段階発注(ECI 方式)により成果を上げる 戸田建設株式会社
ECI 方式を振り返って
最近の建設工事の発注方式においてECI 方式が普及してきています。あらためてECI 方式について説明する必要はないと思いますが、ECI 方式を採用する理由は、①コストによるメリット、②工期確定のメリット、③設計時における技術提案、④建設会社の取組方針――この4 項目を事前に担保できることと考えています。しかし、ECI を採用することでコスト・工期短縮の効果が必ず得られるというものではなく、技術提案および取組体制の裏付けがあってのことだと考えます。特に注意しなくてはならないのが、病院の機能・運用への理解を前提に、ECI 方式を提案しなくてはならないということです。そうして初めてコスト・工期短縮が可能になります。今回の南陽病院様におきましては、基礎工事工法の変更、躯体構造の変更、設備仕様の見直しなど、病院様、近代化センター様、設計事務所様と短期間の過密スケジュールの中、協議させていただき、予定どおり実施設計を終えていただきました。現在(平成30 年4 月)、実施設計図を基に積算作業中ですが、無事に6 月14 日に安全祈願祭を迎える予定です。
公立置賜南陽病院について
公立置賜南陽病院は南陽市立総合病院として、山形県の南部、置賜地域に位置する南陽市に昭和43 年に開設しました。当時は251 床を有し、南陽市民の健康を守る医療施設として役割を担ってきました。その後、山形県、南陽市、長井市、川西町、飯豊町で構成する、置賜広域病院組合が発足し、平成12 年に高度・専門医療、急性期医療および救命救急医療を行う基幹病院として公立置賜総合病院(520 床)が川西町に開設され、サテライト病院群の一員として、地域住民の初期診療、慢性期医療を担う現在の公立置賜南陽病院(50 床)がスタートしました。
開設から50 年を経て、当時の南陽市立総合病院とは目的が異なり、救急・重症患者は置賜総合病院で、地域医療は南陽病院で行うこと、また、施設の老朽化にもかかわらず当時の規模のまま利用しているため、施設の維持管理、エネルギー効率が悪いことから、現在の医療に合った施設として改築することとなりました。
ECI プロポーザル方式について
( 1)プロポーザルの目的
南陽病院においてECI プロポーザルを採用する目的については、先にも述べたように、施工者を早期に参画させることで、様々なメリットを担保することにあります。施工者の過去における実績を考慮し、設計者の考え方、施工者の考え方の両方を検討することで、さらに良い提案を出すことが可能となり、施工段階においても、実施設計時から関わることで設計趣旨を十分に理解する時間ができるので、緊密な関係性を持つことができます。
( 2 )事業スケジュール
平成29 年3 月 株式会社佐藤総合計画に決定、基本設計着手
平成29 年8 月 工事請負業者選定がECI プロポーザル方式で発注
平成29 年9 月 戸田建設・松田組特定建設共同企業体が第一優先交渉権者に選定
平成29 年11 月 改築工事基本協定書締結、実施設計着手
平成30 年4 月 実施設計完了
平成30 年6 月 工事請負契約締結(予定)、着工
平成31 年4 月 建設工事完成
平成31 年5 月 開院、旧病院解体着手
事業スケジュールはそれぞれに適正な期間を設けて実施されていますが、特にECI 方式において特筆すべきところは3 点あります。
①実施設計作業中に、工法の特定、主要資材・労務の手配、各種計画・施工図作業の前倒し
②コスト不調による遅延がない
③契約・建築確認後、即着工できる実施設計時に事前の段取りをしていくことで、施工計画、仮設・安全計画を余裕をもって行うことが可能になり、契約後に即着工できる。
通常の場合は、入札・契約後に施工計画、仮設・安全計画、資材・労務の発注、ネゴシエーション、契約を経ていけば1~ 2 カ月を要します。この期間を実施設計中にできるため、全体の事業スケジュールを短縮できることになります。また、万が一コストによる入札不調が起きた場合、設計の修正、予算の増額などでさらに数カ月遅延します。病院の場合、新施設になることで新たに診療報酬を加算できることが多く、全体のスケジュールが遅延した分、事業費に与える影響も大きくなります。
ECI 方式を採用することで、工期を短縮できるということではなく、それぞれの期間におけるタイムラグ、遅延を解消できるということです。
ECI プロポーザル方式
・所要期間 2 カ月
・提出資料 技術提案書、見積書、技術者実績、施工計画・工程表、VE 提案書
平成29 年8 月1 日 プロポーザル公告
平成29 年9 月6 日 VE 提案書提出
平成29 年9 月22 日 技術提案書、見積書提出
平成29 年9 月29 日 プレゼンテーション、優先交渉権者選定
◎ VE 事前評価方式
今回のECI 方式は事前VE 評価方式を採用し、各社から提出されたVE 提案を事前に評価し、採用されたVE 項目が反映された見積書を提出します。そのために、設計趣旨を逸脱していたり、病院機能を損なうようなVE、また、過大な金額の提示などを、事前に発注者・設計者が判断し、正当性のあるVE 提案のみを採用することで業者選定後の金額の変動を少なくしました。
◎技術提案書
提出する技術提案書の内容としては、次の項目が求められました。
1)取組方針
2)イニシャルコスト低減
3)実施設計取組方針
4)安全・近隣対策
5)地元への貢献方針
提案書を作成するにあたり、特に配慮することとして、公告にも記載はありますが、①医療の実績があること(会社・技術者)、② ECI の実績があり、意義を理解していること、③設計事務所との協働、④地元への貢献、をいかに評価されるかに重点を置いています。今回はECI ですので、施工会社が実施設計に介入し、いかにスムースに価格を合わせていくかが評価されると想像できます。前にも述べていますが、医療並びにECI 方式を理解していることが大前提となります。
大きなコスト低減目標
実施設計を進める上で、ECI の基本になることは、当初の設計趣旨を変えずに、設計者・施工者が一体となり、要求水準を変えない提案を図面に反映していく作業を共同で行うことになります。施工会社が経験上のノウハウや独自工法を提案していき、設計業務を支援しながら、すべての作業にかかわるコストを常に管理していくことです。プロポーザルの際にはコストを下げる提案をしますが、実施設計が始まってからは、上がったコストを管理するのも重要なポイントとなります。基本設計時にはあいまいな仕様、図示されていない項目等があり、また、病院建築は独特で、設計を進めていく中で、使用者が変更になったり、医療制度・診療報酬が変わることで建物の変更につながることもあります。同様に医療機器が選定され、仕様が変わることも多々あります。
それらの変更は必ずコスト増につながりますので、それをタイムリーに伝える必要があり、そのためには設計者と情報を常に共有し、コストが増えた分、コストを下げる提案をしていく必要も出てきます。こういった作業をするには、初めに述べた、病院の機能・運用を前提に、ECI 方式を理解していなければ、最終的にコストが増額し、まったくECI のメリットを生かせないという結果になりかねません。
今回の南陽病院では、基本設計時の予定価格を超過した見積額を提示することとなり、超過額を解消するVE 提案と設計変更提案を行いました。しかしながら、病院の要求水準を変えるような変更提案もあったため、かなりの時間をかけて協議を続けてきました。最終的な低減効果として、約30%を達成することができました。
おわりに
第一優先交渉権者に選定していただいた時点で、大きなコストの壁が立ちはだかり、今後どのような展開になるのか、想像もつきませんでしたが、南陽病院様、医療施設近代化センター様、佐藤総合計画様の多大なるご協力を得て、予定どおりのスケジュールで着工できることに、非常に感謝しています。これから新病院の建設が始まりますが、職員のモチベーションが大きく膨らみ、患者様もよりよい療養環境に期待され、地域にとっても明るく利用しやすい病院となることへの安心、市民にとって待望の施設になります。施工者として病院づくりのノウハウを提供し、安心安全な環境づくりに貢献していくことが使命であると考えています。工事期間中、病院の患者様、職員の皆様、地域の皆様にご迷惑をかけることになりますが、日に日に形になる病院にご期待いただければ幸いです。