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みとよ市民病院の建替え➊

 本稿では、自治体病院再建の好例として、香川県三豊市立永康病院の建替えについてレポートする。

 

まず、同市の政策アドバイザーである伊関友伸氏(城西大学経営学部教授)から寄稿いただいた。建替えの経緯からローコストの病院建築までが詳細に述べられている。続いて山下市長には、要所における政治判断や健康まちづくりについて、建替えが進む永康病院の潟中病院長と清水看護部長には目指す病院の姿と病院再建の主なポイントについてインタビューさせていただいた。さらにプロジェクトを受注した株式会社石本建築事務所と大成建設株式会社の担当者の方々には、プロポーザルでのやり取りや設計、施工の内容についてお話しいただいた。

自治体病院の役割と現状

 健康都市は地域住民の健康の維持・推進を政策レベルで支える仕組みである。中でも医療は命を守る最後の砦として極めて重要だ。いざ病気になった時、身近な病院で適切な医療を受けることができる安心は何ものにも代え難い。特に、どの地域にも存在する自治体病院(※1)への信頼は根強い。

 

医療法により、自治体病院には公益性の高い医療を提供することが定められている。対象となるのは5疾病(がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病、精神疾患)と医療の確保に必要な5事業(救急医療、災害時における医療、へき地への医療、周産期医療、小児救急医療を含む小児医療)および在宅医療だ。民間病院にとって不採算な部門を自治体病院が担う構図である。

 

一方で、そうした自治体病院の在り方が変わろうとしている。主な原因が、超高齢社会に伴う疾病構造の変化だ。急性期から慢性期中心に移行するにつれ、 厚生労働省は地域包括ケアシステム(※2)により、「病院中心の医療」から「地域全体で患者を支える医療」へ大転換を始めた。推進に向け、急性期病棟(一般病棟)の入院基準を厳しくし早期退院を促すなどして急性期病床を減らす一方、在宅医療を支える機能を病院に求めている。

 

こうした医療政策は、地域の基幹病院としての規模を持たない多くの中・小規模自治体病院(300床以下)の経営を直撃した。慢性的な医師不足で採算が取れる分野での収益が落ちていた上、入院患者の減少と一人あたりの入院日数の短縮により病床稼動率が低下したためだ。結果、医師不足による診療体制の縮小と経営状況の悪化という負のスパイラルに陥ってしまった。

 

自治体病院の窮状は、建替えや改修で生じる過大な設備投資にも起因する。官庁工事は民間と比べてコスト高であることが知られている。診療報酬は厳しく規制されており、医業収入を超えた過剰投資を行った場合、回収するのは困難だ。さらにコスト削減のしわ寄せが医師の処遇に及ぶと離職を招くことにつながり、負のスパイラルを加速させてしまう。

 

方針転換と設備投資の見直し

 こうした事態に自治体病院はどのように対応しているのか。第一が方針転換だ。「やりたい医療」を提供するのではなく、「やらなければならない医療」に照準を合わせる。地域の人口構成や医療ニーズを把握し、地域内の他の病院の医療機能を分析した上で、「足りない医療」、「求められる医療」は何かを考え、その部分を埋めていく。

 

第二が過大な設備投資、特に建築コストの見直しだ。費用を左右する要因の一つに発注方式がある。従来、官庁は設計と施工を分離する方式を基本としてきた。しかし、「建設コストが入札まで分からない」、「スケジュールが長期化するリスクがある」といったデメリットにより、現在は多様な発注方式を採用することでコストの削減や建設期間の短縮を図るようになった。国土交通省も、地方公共団体における多様な入札契約方式の導入・活用を進めている。

 

また、病院建設ではさまざまな専門医療スタッフの意見を取り入れ、調整を行いながら進める必要がある。設計者の提案内容や施工者の技術とコストの妥当性を判断し、予算超過を防ぎつつ工期を守らねばならない。課題は、そうした専門性が十分備わっていない中小規模の自治体が多いことだ。

 

そこで注目されるのがコンストラクションマネジメント(CM)である。コンストラクションマネージャー(CMR)が施主の立場で事業計画から管理までのマネジメントを一貫して支援する契約方式だ。自治体ニーズの高まりを受け、国土交通省は2020年に「地方公共団体におけるピュア型CМ方式活用ガイドライン」を発行し制度化と普及を促進している。

 

本稿では、こうした状況下にある自治体病院再建の好例として、香川県三豊市立永康病院の建替えについてレポートする。

 

三豊市と栄康病院の位置
三豊市と栄康病院の位置