施工予定者選定の公開プレゼンテーションで優先交渉権者となったのが戸田建設株式会社だ。同社はECIの利点を生かし、ゼネコンならではのVE(バリューエンジニアリング※)を提案した。内容について、同社岡山総合営業所長の小野隆氏と広島支店技術営業課長の齊藤透氏に話を聞いた。
技術協力者のVE
VEのメリット
玉野医療センターはECI方式で技術協力者(施工予定者)を選定した。目的は、実施設計中に施工者のノウハウを反映させ、コストの縮減や工期の圧縮を図ることだ。特に効果が見込めるのが同社がプロポーザルで提案したVEである。
技術提案者である小野氏は、「工業化を念頭にVE提案を行った」と語る。大きいものでは、基本設計で示されていたRC造(鉄筋コンクリート造)をRCS造(柱を鉄筋コンクリート、梁を鉄骨造にする構法)に変更した提案がある。利点は、梁に鉄骨を使うことで柱を減らせた結果、その下の杭も減らせたことだ。「柱は1階から6階まで全体で60本を減らせました。結果、より広い空間を有効活用できるようにしたと同時に、約1億円のコスト削減につなげています。」
ゼネコンの構造設計の特徴は、安全かつ効率的で少しでもコスト削減する方法を常に模索していることだ。その一つがRCS造であり、多くのゼネコンが採用している。ただし、特許工法のため、設計事務所がすぐに構造設計に取り込むことが難しいという。「VEでゼネコンが所有する特許工法を活かすことで、より優れたローコストな病院を建設できるのです。」
今回は他にも工業化の提案を取り入れた。例えば杭打ち工事での既成杭の採用だ。「当初は『場所打ち杭』といって現地で穴を掘り、鉄筋を入れてコンクリートを打ち込む工法でしたが、工場生産の杭を現場に運び、埋め込む方式を提案しました。結果、品質の向上と約5千万円のコスト削減につなげました。」床のスラブ型枠や鉄筋トラス式デッキも工場生産にすることで、約2千万円の削減効果を上げた。さらに現場作業を減らすことで2か月間の工期短縮を果たすと同時に、労務改善や人手不足の解消にもつなげている。
CMの役割
齊藤氏は「病院建築が複雑ゆえにCMの役割が生まれる」と指摘する。「担当者は建築や設備の知識に加え、医療機器や医療情報システムにも精通していなければなりません。しかしそれを望むのは無理であり、専門家に頼らざるを得ません。今回はCMrを通して我々施工者の提案を病院側に理解いただくことができました。発注者に信頼があるCMrは有難い存在です。」
コストコントロールの役割も大きい。設計会社による設備の見積もりは通常、㎡単価で積算する。そこを今回のCMrが設備毎に単価を見直すように要求した結果、大幅な削減につながった。一方で施工会社にとっては、厳しい状況になったという。コストを絞り切った状態でVE提案に臨まねばならなかったためだ。「その中で構造の特許技術や工業化により、およそ2億円のコスト削減を提案できました。」
CMrが不在だと、業務推進でも困ることが多いという。さまざまな関係者や専門家の意見を聞かねばならないためだ。「その調整を含めて業務を推進しようとすると、設計会社と施工会社の間で中途半端な分担になってしまいます。その点、CMrは発注者の代行として中立な立場でコントロールできます。」