病院では、医療情報システムと同時に医療機器(※)も重要な要素だ。みとよ市民病院では、株式会社医療開発研究所が大成建設株式会社と密接に連携し、医療機器を選定・導入した。プロセスとCMの役割について、同社シニアマネージャーの水島啓吾氏に話を聞いた。
※ 医療機器:構造や使用方法、性能、効果が明確で「疾病の診断や治療、予防に使用されること」または「身体の構造、機能に影響を及ぼすこと」のどちらかにに該当する機械器具であり、「薬事法」で規制されている。規制別には、クラスⅠ(承認が不要なハサミやメス等の一般医療機器)、クラスⅡ(第三者認証が必要な電子内視鏡、MRI、消化器用カテーテル等の管理医療機器)、クラスⅢ(大臣認証が必要な透析機器、ペースメーカー、放射線治療装置等の高度管理医療機器)に分類できる。検査や診断で医療機器を扱うには、臨床工学技士や診療放射線技師、臨床検査技師といった資格が必要。
医療開発研究所の医療機器コンサルテーション
基本設計段階からの一貫したサービス
同社はコンサルティング会社として、医療機器や医療情報システムの選定支援、開院後のチェック、運用支援にいたるまで、一貫したサポートを行っている。ただし販売を行うメーカーやベンダーとは異なり、入札には参加しない。同社マネージャーの水島氏によると、コンサルティング契約は、自治体のプロポーザルや設計会社からの委託や紹介を介することが多いという。「通常は施工段階ではなく、設計段階やそれ以前(基本構想・計画)から参画します。」基本設計で平面図を作成する際、機器や物品がレイアウトされていないと現場がイメージしにくいためだ。
医療機器導入のプロセス
最初に行うのが現有機器の調査だ。大型医療機器から家具什器まですべてを洗い出し、対象物に番号シールを貼り、写真やスペックをリストに記す。さらに目的別に新機購入、移設、廃棄候補に分類し予算策定の資料とする。判断基準となるのが、法定耐用年数や修理対応の可否、移設費用等だ。新規購入に向けては、予算を踏まえて部門別にヒアリングし、メーカーや必要機能をリストアップする。「高額な費用をかけて移設したとしても、数年後に買い替えねばならないものは移設を勧めません。」廃棄物リストが必要なのは、廃棄にもコストがかかるためだ。
設計終了時には工程調整と並行して調達支援を行う。購入予定の機器の一覧表や各メーカーの比較表を作り、なぜこの機種が必要なのか選定理由書を付ける。「重要なのが、その病院で行いたい診療に合わせること」と水島氏。例えば画像診断装置の場合、オプション機能はメーカー毎に異なる。オーバースペックは無駄なコストにつながるため、それが病院にとって本当に必要なのか見極めねばならない。
家具什器の場合、新しいものは原則移設に振り分ける。新病院で患者の目に触れるエリアではできるだけ新調し、バックヤードでは現状のものを活用する。ただし、ベッドは新調が望ましいという。新病院に患者を搬送する手段はストレッチャーと救急車等の移送車であり、ベッドごと搬送できないためだ。「新病室では、新品のベッドで患者を迎え入れる考え方が一般的です。」
レイアウトは図面上だけでなく、モックアップでも検討する。今回も、病室のモックアップを建設現場事務所前のプレハブに作った。「ベッドや床頭台を置き、特に車いすでの動線で問題がないかチェックしました。」
入札は一品ずつかけると大量になるので、通常は関連機器をメーカー毎にまとめる「グルーピング」を行う。特に高額なCTやMRIは単体よりもまとめ買いをする方がスケールメリットになり値引きされやすいという。「今回もメーカー指定があったので、この手法を用いました。」
気になる価格だが、CTの場合、列数により数千万円から2~3億円の幅がある。列数とは体軸方向の検出器の数で、一番多いもので320列、一般的には16~80列となる。もちろん、多いほど一回転で広範囲を撮影できる。水島氏は「移設する場合は解体や工事、運搬、組立て、試験運転といった移設費用として5~6百万を見込む必要がある」と付け加える。
高額な機器では、使い方を検証しながら適正なスペックをアドバイスする。「現場担当者はハイエンドな機種を要求しがちですが、オーバースペックと思われる場合は周囲の病院の実績を見ながら『これくらいの使用回数でこれくらいの診断内容であれば、これくらいのスペックでよいのでは?』と提案します。」
開設前には、新たな病院で運用リハーサルを行う。模擬患者を立て、医療従事者が参加して受付、外来、検査室等をシミュレーションする。「この段階でサインの修正が入ることがありますが、医療機器については基本設計から検討しているため、追加変更はまずありません。」
CMの必要性
水島氏は「CM業務は我々にとって特にコストコントロールで重要」と指摘する。設計が進むにつれて、建築資材や工法の追加・変更により建築コストが嵩むのが一般的だが、一定水準を超えると医療機器の予算に影響を及ぼすためだ。「最悪の場合、予算がゼロになる恐れすらあります。予算超過を抑えるためにも、CMは絶対に必要です。」